第1章|なぜ「戦略的営業」が今求められるのか?

かつての営業は、「とにかく足で稼ぐ」「熱意を伝える」「商品を知っていれば売れる」といった、体当たり型の営業が主流でした。電話営業や飛び込み営業など、量をこなすことで成果が上がる時代では、「行動量=売上」だと考えられていたのです。
しかし、時代は大きく変わりました。
スマートフォンとインターネットの普及により、顧客は営業マンから話を聞く前に、すでに商品やサービスの情報を調べ、自分なりに答えを出してしまっています。
顧客は「情報武装」している
現代の顧客は非常に目が肥えており、安易なセールストークや一方的な押し売りに対しては強い拒否反応を示します。「この営業は本当に自分のことを考えて提案してくれているのか?」という視点で、営業マンの話を聞いているのです。
そのため、ただ商品を紹介したり、価格を提示したりするだけでは選ばれません。顧客の課題を深く理解し、「その人のためだけに設計された解決策」を提案する力が求められます。
差別化が難しい時代こそ、「戦略」が武器になる
商品力や価格だけでは競合との差が出しづらくなっている今、営業パーソン自身の「考え方」や「提案の仕方」こそが、最大の差別化要素になります。
「戦略的営業」とは、単なる商談スキルではありません。
市場や顧客のニーズを分析し、自社の強みと顧客の課題をどうマッチさせるかを考え抜いた“全体設計”のことです。
つまり、「誰に・何を・どうやって売るか」を明確に描けている営業こそ、成果を出し続けられるのです。
営業の役割は「売ること」から「導くこと」へ
かつて営業の役割は「売ること」でしたが、今は「顧客の意思決定を助けること」が求められています。顧客は悩みや不安を抱えており、その意思決定の支援をしてくれる存在こそが信頼され、選ばれる営業になります。
そのためには、商品を売ることに躍起になるのではなく、顧客との対話から課題を発見し、その解決策を提案できる「戦略性」と「思考力」が不可欠なのです。
このように、現代の営業においては、旧来型のアプローチでは限界があります。「行動量×戦略設計」が成果の分かれ目となる時代において、戦略的営業へのシフトは、すべての営業パーソンにとって避けて通れないテーマなのです。
第2章|トップ営業マンの共通点とは?

営業成績が常に上位にある営業パーソンには、単なる根性論や人当たりの良さだけでは語れない“共通の習慣”と“思考の型”があります。ここではその代表的な3つの共通点を紹介します。
1. 自分だけの「勝ちパターン=仕組み」を持っている
トップ営業マンは、商談を運任せにせず、成果を出すまでのプロセスを細かく「仕組み化」しています。たとえば、
- アプローチからクロージングまでのトーク展開をシナリオ化している
- 商談前の準備ルーティン(情報収集、仮説立て、想定問答)を習慣化している
- 商談後の振り返りをテンプレート化し、常に改善点を明文化している
このように、無意識の行動を「意識的な型」に落とし込み、再現可能な営業スタイルを確立しているのが特徴です。
2.「売る」より「引き出す」ことに長けている
一般的な営業マンは、自社の商品やサービスの魅力を伝えることに時間を割きます。一方、トップ営業は「聞くこと」に時間を費やします。
彼らは顧客の現状・悩み・理想像を引き出すために、丁寧なヒアリングと深堀り質問を徹底しています。
そのうえで、商品ありきではなく、「お客様の課題解決に役立つ手段として、自社の商品を提案する」ことに徹するのです。
その結果、顧客は「この人は売ろうとしているのではなく、助けようとしている」と感じ、信頼関係が生まれます。
3. ゴールは「契約」ではなく「信頼関係の構築」
短期的な売上だけを追う営業は、目の前の数字にとらわれがちです。しかしトップ営業は、商談の“ゴール”を契約そのものではなく、「長期的な関係構築」と捉えています。
例えば、
- 初回の商談ではあえて売らず、顧客の不安を取り除くことを優先する
- 契約後も定期的なフォローアップを欠かさず行い、リピートや紹介を自然に生み出している
- 顧客の成長や課題の変化に合わせて、新たな提案を繰り返し続けている
こうした姿勢が、顧客にとって“信頼できるビジネスパートナー”としての地位を築き、結果的に安定的かつ継続的な成果を生み出しています。
一言でいえば、トップ営業マンは「属人的な力」ではなく、「再現性のある行動×顧客視点の深さ」で成果を上げているのです。
第3章|成果を出すエリート営業の戦略的フレームワーク

成果を出し続ける営業マンには、共通して「戦略的な思考プロセス」が備わっています。ただ闇雲に動くのではなく、顧客の心をつかむための準備と流れがあるのです。ここでは、成果を導く5つのステップを順に見ていきましょう。
STEP1:情報収集と市場分析
戦略的営業の第一歩は、徹底的な情報収集です。営業活動の精度は、事前に集めた情報の質と量に大きく左右されます。
具体的には以下の3つの視点が重要です。
-
業界動向の把握
その業界で今、何が起きているのか?法改正やトレンド、季節要因など、外的要因を押さえることで、顧客の背景やニーズの変化を読み取れます。 -
競合の戦略分析
他社がどのような提案や価格帯で攻めているのかを知ることで、自社の差別化ポイントや切り口を明確にできます。 -
ターゲット顧客の行動傾向の把握
SNSの投稿内容、口コミ、業界誌でのコメント、過去の取引情報などから、「顧客が今何を求めているか」を読み解くことが大切です。
このフェーズを「なんとなく」で済ませてしまうと、その後の提案やクロージングが見当違いになってしまいます。
STEP2:ペルソナ設定と顧客心理の把握
どんな相手に、どんな価値を提供するかを明確にするために、ペルソナ(架空の理想顧客像)を設定します。これは単なる属性情報(年齢・性別・業種)ではなく、次のような“心理背景”まで掘り下げることが重要です。
- どんな悩みを持っているか?
- 過去にどんな失敗や不満を経験しているか?
- 何に価値を感じるか?価格、安心、スピード、信頼など
- 最終的な理想状態とはどのようなものか?
このステップをしっかり行うことで、相手の頭の中に入り込むような提案が可能になります。つまり、「この営業マン、よくわかってくれている」と思わせる土台が整うのです。
STEP3:商談ストーリーの設計と準備
営業は一回きりのプレゼン勝負ではありません。最初の接点からクロージング、契約後のフォローアップまで含めて、一貫した“ストーリー”が必要です。
そのために以下の流れを設計します。
-
第一印象での信頼形成(導入)
雑談の中から顧客の価値観や関心事をつかみ、心理的距離を縮めます。 -
課題の顕在化(ヒアリング)
顧客自身も気づいていない潜在的な悩みを引き出す質問力が求められます。 -
具体的な提案(プレゼン)
商品説明ではなく、「顧客の課題をこうやって解決する」という視点で話します。 -
将来への布石(クロージング)
契約だけで終わらず、次の訪問やフォローへの約束を取り付けます。
一貫したストーリーがあることで、顧客は安心して商談に乗ってきます。
STEP4:ヒアリングと提案の分離戦術
優れた営業マンは、「提案の前に、徹底したヒアリング」を重視しています。
なぜなら、顧客の情報が不十分な状態で提案をしてしまうと、的外れな提案になりやすく、説得力がなくなるからです。
具体的には、
- 相手の現状・課題・理想像を引き出すまでは、商品や価格の話をしない
- 相手の言葉の“裏にある本音”をくみ取るため、深掘り質問を繰り返す
- 相手が話しすぎてしまうくらいのヒアリングを目指す
このように、「話す」より「聞く」を徹底することで、提案の精度が格段に高まり、受け入れられやすくなります。
STEP5:クロージングより大切な「次への布石」
営業の最終目的は「契約」ですが、その場で決まらないことも多々あります。そこで重要になるのが、「次回につなげる布石」を打つことです。
たとえば、
- 「今日話した内容を元に、○○の提案書を作成しますので、〇日までにお持ちします」
- 「この件はご家族とも相談されると思うので、次回ご一緒に話を伺える日を調整しましょう」
- 「今回は○○の話でしたが、△△についてもニーズがあるかと思います。次回はそこを深掘りさせてください」
このような会話を自然に盛り込むことで、継続的な関係が生まれ、リピートや紹介につながる可能性が高くなります。
この5ステップは、決して一度限りのテンプレートではなく、「考え抜いた準備」と「相手視点の徹底」が土台となったフレームワークです。
営業における「戦略的思考」の真価は、このプロセスを繰り返し改善していくことで、磨かれていきます。
第4章|実例で見る!戦略的アプローチの成功事例

いくら理論やフレームワークを学んでも、実際にどう活用するかがわからなければ意味がありません。ここでは、戦略的営業を実践して成果を出した具体的な事例をBtoBとBtoCの2つに分けて紹介します。
【BtoB事例】大手企業との長期契約を勝ち取ったストーリー
ある営業マンは、ITソリューション企業で中堅クラスの営業担当をしていました。ターゲットは、既に複数のベンダーと契約している大手製造業。通常なら、価格競争や機能の比較で勝負にならない状況でした。
しかし彼は、商談に入る前に以下のような徹底した準備を行いました。
- 業界の変化(デジタル化、人材不足)とそれに伴うクライアントの課題を調査
- クライアントの過去5年分のIR資料や業界紙記事を読み込み、将来の経営方針を分析
- 競合ベンダーの提案内容を調査し、あえて「比較しない」独自の切り口を検討
そのうえで提示したのは、「業務効率化ではなく、採用難への根本的アプローチとしてのIT導入」という提案でした。これは従来の“機能説明型”の営業ではなく、経営課題を読み解いた“提案戦略型”の営業です。
この提案が経営層に刺さり、「一緒に中長期的な体制を作っていけるパートナー」と評価され、結果として年間契約+3年間のサポート契約という高単価受注を獲得しました。
キーポイントは、「相手がまだ言語化していない課題を、外部視点から明確にし、それに対する具体的な解決策を提案したこと」です。
【BtoC事例】高額リフォーム契約を成立させたポイント
戸建て住宅の外壁・屋根リフォームを提案する営業担当者は、一般的な提案では「耐用年数」や「費用対効果」を軸に話を進めがちです。しかし、ある営業マンは全く違う切り口で臨みました。
対象のお客様は築15年の住宅に住む40代夫婦で、2人の子どもがいる家庭。営業マンは初回訪問の段階から、以下の視点で情報を収集しました。
- 家族構成とライフステージ(子どもの進学や独立の時期)
- 今の住まいであと何年暮らしたいかという将来の暮らしのビジョン
- 過去に住まいに関して不安や不満を感じた経験
- 外観や色へのこだわり、近隣との景観調和などの美意識
このヒアリングをもとに提案したのは、単なる外壁塗装ではなく「20年間安心して住める家づくりプラン」。耐久性の高い塗料だけでなく、防水・遮熱・景観の統一まで含めた総合提案でした。
また、提案資料も家族が将来の生活をイメージしやすいように、
- リフォーム後の完成予想パース(色味・デザイン含む)
- 10年後のメンテナンススケジュール
- 過去の同年代家族の施工事例とレビュー
など、視覚的にも納得感のある内容に仕上げました。
結果として、相場より30%高い提案にも関わらず、「この人に任せたい」「この提案が一番家族のことを考えてくれている」と納得してもらい、数百万円の契約をスムーズに獲得することに成功しました。
この2つの事例に共通するのは、「売る」ことを目的とせず、「相手の未来をデザインする」視点で提案している点です。
単なる商品紹介ではなく、「なぜ今これを提案するのか」「相手の人生にどう価値を与えるのか」を見せる営業こそ、成果に直結する戦略的アプローチと言えるでしょう。
第5章|今日から取り入れる!エリート営業の習慣術

どれほど素晴らしい戦略やスキルを学んでも、それを日々の営業活動に落とし込めなければ成果にはつながりません。
トップ営業マンは“特別な才能”を持っているというよりも、当たり前のことを「仕組み化」し、「継続」している人なのです。
ここでは、エリート営業が実際に行っている日常習慣の中でも、効果が高く、すぐに取り入れられるものを3つ紹介します。
1. 毎日の振り返りに使える「セルフレビューシート」
トップ営業ほど、商談後に自分を客観的に振り返る習慣を持っています。
単なる感想ではなく、明確な視点での振り返りが重要です。
以下のような3つの問いをベースに、シート形式で記録することをおすすめします。
-
うまくいった点は?(GOOD)
→ 相手の反応が良かった話し方や提案のポイントは何だったか -
改善すべき点は?(BETTER)
→ 質問の仕方が甘かった、準備不足だった部分はどこか -
次回どう動くか?(NEXT)
→ 次回の訪問時のテーマや、フォローすべきポイントの明文化
この“PDCA”を毎日5分で振り返るだけでも、自分の営業の「質」が格段に向上します。
できれば、週1回はまとめて見返すことで自分の成長にもつながります。
2. 商談前の「準備ルーティン」
商談の結果は、始まる前に8割決まっているとも言われます。
エリート営業は、商談直前に以下のような**“準備の型”**を毎回繰り返しています。
-
相手企業・担当者の最新情報のチェック
→ ホームページ、SNS、業界ニュース、最近の人事異動やイベントなど -
過去の接触履歴・会話メモの読み返し
→ 前回話した内容や、相手の反応・課題・関心ポイントの再確認 -
提案資料の最終チェックとカスタマイズ
→ テンプレ資料ではなく、「その人のためだけの提案」にするための微調整 -
想定問答のシミュレーション
→ 「どんな質問が来るか?」「どんな断り文句がありそうか?」をあらかじめ準備
このような準備をすることで、商談中に慌てたり迷ったりすることが減り、提案がブレずに相手に届きやすくなります。
3. 感情に流されない「営業日報」の活用法
営業日報を「書かされるもの」と思っていませんか?
エリート営業は、日報を自分の成長ツールとして活用しています。
そのためのコツは、「主観」ではなく「事実ベース」で記録することです。
書き方のポイント:
- 事実:「○○様に10時訪問。10分遅刻。ヒアリングできた内容は〇〇」
- 客観評価:「提案への反応はやや弱め。価格よりも保証を重視している様子」
- 次の一手:「次回訪問時は施工事例の保証内容を具体的に提示する」
また、日報には「気づき」や「小さな成功体験」も書くと良いでしょう。
「言い返せた一言」「相手が笑顔になった瞬間」など、前向きな記録はモチベーションの維持にもつながります。
習慣が営業を変える
このように、日々の習慣を「見える化」「型化」することで、営業は誰でも磨くことができます。
成功している営業マンは、派手なスキルや話術よりも、こうした“地味な積み重ね”を丁寧に続けているのです。
明日からでも始められる、シンプルで再現性のある営業習慣。
ぜひ、今日からひとつずつ取り入れてみてください。
第6章|まとめ:売れる営業は「戦術」より「戦略」で差をつける

これまでの章で見てきたように、現代の営業において成果を分けるのは、「テクニックの巧みさ」ではなく、「考え方の深さ=戦略性」です。
もちろん、話し方やプレゼンの技術、クロージングのタイミングなどの戦術的スキルも重要です。
しかし、それ以上に成果に直結するのが、
- 誰に対して
- 何をどのように伝えるか
- どの順番で関係性を築いていくか
といった全体設計=戦略的視点です。
営業は「点」で勝負するものではなく「線」で結果を出すもの
1回の商談で成果を出そうと焦るのではなく、
最初の接触から契約、さらにはリピートや紹介までを含めた「顧客との関係性全体」を設計することが、エリート営業の基本的な姿勢です。
たとえば、以下のような流れで営業を設計しているかが重要です。
- 接点を持つ段階で、信頼される情報や価値ある話題を提供できているか
- ヒアリングを通じて、顧客自身も気づいていない課題を明確にできているか
- 提案に「納得」ではなく「共感」や「期待」を持たせられているか
- クロージング後も「この人なら次も任せたい」と思わせられているか
このような「流れ=戦略の設計」が、目先の数字以上に、営業という仕事の“質”を高めてくれます。
戦略的営業とは、「相手本位の提案力」である
戦略的な営業とは、自分の売りたいものを売るのではなく、「相手の目的にどう貢献できるか」を主軸に提案する力です。
そのためには、表面的なニーズだけでなく、背景や価値観、未来像にまで踏み込んだヒアリングと仮説構築が必要です。
言い換えれば、営業とは商品を売る仕事ではなく、信頼を創る仕事です。
戦略は才能ではなく「選択と継続」で磨ける
ここまで読んで、「自分にはまだ戦略的思考が足りない」と感じた方もいるかもしれません。
しかし、戦略とは生まれつきの才能ではなく、日々の選択と継続によって磨かれるものです。
- 商談前に「この相手にとって一番価値ある話題は何か?」と考える習慣
- 断られた理由を「自分ではなく顧客の視点」で振り返るクセ
- 同じ提案資料でも「誰に見せるかで変える意識」を持つこと
こうした積み重ねが、営業の「質」を変え、やがては圧倒的な成果となって表れます。
明日からの営業を、変えてみよう
最後に伝えたいのは、**「営業の成功は、才能ではなく設計にある」**ということです。
明日からは、「どう売るか」だけでなく「なぜ売れるのか」「どう信頼されるか」を考えながら行動してみてください。
小さな意識の変化が、長期的には大きな成果の差を生み出します。
今こそ、「戦略的営業」を自分のスタイルに取り入れ、他と差をつける第一歩を踏み出しましょう。
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