1. はじめに:なぜ今「共感」がマーケティングの鍵なのか

これまでのマーケティングでは、「いかに高品質な商品を、いかに安く、効率よく売るか」が成功のポイントとされてきました。大量生産・大量消費の時代には、それがもっとも合理的な方法だったからです。
しかし、現代はまったく異なる価値観へと移行しています。
消費者はすでに「モノを選ぶ」時代から、「コト(体験)やヒト(想い)を選ぶ」時代へとシフトしているのです。
特にSNSやYouTubeなど、個人が情報発信できる時代になったことで、消費者と企業の距離がぐっと近くなりました。
企業の姿勢や価値観、スタッフの人柄、地域との関わりなど、“目に見えない部分”が評価対象となり、それが購買動機に強く影響を与えるようになっています。
たとえば…
- 「環境問題に真剣に取り組んでいるから、応援したい」
- 「地域に根ざして活動している企業に共感できる」
- 「スタッフの対応が心地よくて、この会社のファンになった」
こうした“共感”が、価格やスペックを超えて「この会社から買いたい」という動機へとつながっていくのです。
だからこそ、今のマーケティングでは、単なる商品説明や価格訴求だけでなく、企業の想いや姿勢を丁寧に伝えることが求められます。
その想いを伝えるための柱となるのが、 「サスティナブル(持続可能な姿勢)」と「共感(人と人とのつながり)」。
この2つの要素が組み合わさることで、ただのセールスではなく、“信頼されるブランド”をつくるマーケティングが実現できるのです。
2. サスティナブルマーケティングとは?
サスティナブルマーケティングとは、企業が利益だけでなく、地球環境・社会・人との関係性に責任を持つことを前提としたマーケティング手法です。
単なる「エコ」や「CSR(社会貢献)」とは違い、企業の価値観そのものをベースにした取り組みであり、経済活動と社会的責任を両立させることが求められます。
現代の消費者は、企業の「理念」や「姿勢」に敏感です。
だからこそ、サスティナブルな取り組みは企業のイメージ向上だけでなく、実際の購買行動に直結する“選ばれる理由”となってきています。
● 環境配慮型ビジネスの重要性
地球温暖化、プラスチックごみ問題、森林破壊など、環境問題はもはや“誰かの問題”ではありません。
政府や自治体だけでなく、企業にも明確な対策と姿勢が求められる時代です。
サスティナブルマーケティングでは、例えば以下のような取り組みが重視されます:
- 再生可能エネルギーの導入(太陽光発電、風力発電など)
- リサイクル素材を使った商品や包装の採用
- 輸送時のCO₂削減を意識した物流体制
- 製品寿命の延長=“買い替え”ではなく“長く使える”という思想の製品設計
これらの取り組みは、単なる環境対策ではなく、「企業としての誠実さ」や「未来を見据えた責任感」として受け取られ、消費者からの信頼を生みます。
● 長期的な視点で信頼を築く考え方
サスティナブルマーケティングは、短期的な売上を追う従来型の営業戦略とは異なり、“長く愛され、応援される企業”になることを目的とします。
短期のキャンペーンや割引では得られない「関係性」を築くことで、以下のような長期的な成果をもたらします:
- 顧客ロイヤリティの向上:企業の姿勢に共感した顧客が、リピートや紹介につながる
- 口コミによる拡散:商品以上に“ストーリー”がSNSなどで共有されやすくなる
- 従業員エンゲージメントの向上:理念に共感した人材が集まり、社内のモチベーションや定着率も高まる
このように、目に見えにくいけれど、確実に“選ばれる理由”となる信頼を積み上げるのが、サスティナブルマーケティングの本質です。
3. 共感マーケティングの基本構造

現代の消費者が商品やサービスを選ぶ基準は、かつての「価格・機能・ブランド力」といった合理的な理由だけではありません。
むしろ、「その企業がどんな思いで事業をしているのか」「社会や地域に対してどんな姿勢でいるのか」といった、感情的なつながり=“共感”が、大きな意思決定要素になっています。
この「共感」を軸に構成されるマーケティングが、「共感マーケティング」です。
単に広告で魅力を伝えるだけでなく、企業の人間性や背景に共感してもらうことで、“ファン化”や“応援購入”が生まれます。
● 商品ではなく「想い」を伝える時代
かつては「高機能・低価格」が消費者の関心を集めましたが、今はそうした価値が飽和状態です。
たとえば、似たような機能を持つ商品が5社から出ていた場合、選ばれる理由は「どこが一番安いか」ではなく、
- 「どの企業に誠実さを感じるか」
- 「どのブランドの考え方に自分が共鳴できるか」
といった“心の動き”に変わってきています。
だからこそ、企業として重要なのは、商品説明以上に、次のようなメッセージを発信することです。
- なぜこの事業を始めたのか
- どんな想いでこの商品を作っているのか
- 社会にどう貢献したいと考えているのか
それは、企業の「存在理由(パーパス)」を消費者に伝えることであり、同じ価値観を持つ顧客との強いつながりを生み出します。
● ユーザーはどこを見て共感しているのか
共感マーケティングにおいて大切なのは、「共感される場所」は意外と広範囲にあるという点です。
ユーザーは、商品パンフレットだけでなく、次のような“日常の発信”から企業の姿勢や空気感を感じ取っています:
- 企業のWebサイト:トップメッセージ、採用ページ、会社概要に込められた想い
- SNSの投稿:代表や社員の日々の発信や言葉遣い、コメントへの返信の仕方
- スタッフの対応:電話・メール・訪問時の態度、言葉選び、対応スピードなど
- 地域との関わり:地元イベントへの参加、防災活動、寄付、清掃などの社会活動
- 社内の雰囲気:働く人たちの表情や声。ブログやYouTubeに映る姿が信頼を生むこともあります
つまり、ユーザーは“企業の人格”を日々観察しており、その姿勢に共鳴したとき、「この会社と関わりたい」「ここで買いたい」という感情が芽生えるのです。
共感マーケティングは、そうした企業の“人間性”を磨き、それをしっかりと見せていくことで成立します。
それは広告よりもずっと深く、長く顧客の心に残るマーケティング手法です。
4. 共感を生む4つの要素

共感を生むには、ただ理念や行動を掲げるだけでは不十分です。“言葉と行動が一致していること”が信頼を生み、やがて共感へとつながります。
ここでは、ユーザーの心を動かすために特に重要な「4つの共感要素」を詳しく解説します。
① 企業理念とストーリー
企業がどんな理念を持ち、なぜその事業を行っているのか。
その“原点のストーリー”は、企業の人格そのものであり、共感の出発点です。
たとえば:
- 「実家の屋根が崩れたのをきっかけに、この仕事を志した」
- 「地元をもっと住みよい街にしたいという思いから、地域密着の塗装店を始めた」
- 「リフォーム業界のトラブルをなくしたいという信念で、誠実な仕事を貫いている」
こうした想いは、会社案内やSNS、ブログ、採用ページなどで“素直な言葉”として発信されると、ユーザーに深く届きます。
創業者の苦労話や、社員たちの成長ストーリーも、企業の“体温”を伝える武器になります。
② 社会課題への取り組み
企業としての「社会への姿勢」は、今や購買行動に直結する判断材料です。
ただ事業を行うだけでなく、「社会の一員として何ができるか?」を問い続ける企業は、自然と支持を集めます。
例として:
- 災害時に地元の避難所に物資提供
- 売上の一部を福祉団体や教育機関に寄付
- 空き家の見守り活動や高齢者宅への定期点検
- 子ども食堂や地域清掃ボランティアへの継続参加
「お金儲けのためだけに会社があるんじゃない」と伝えるこうした行動は、企業の“誠実さ”を象徴するものとなり、共感を呼びます。
③ 地域社会とのつながり
特に中小企業にとって、“地域とのつながり”は最大の武器です。
- 地元の学校と連携して職業体験を実施
- 商店街や自治会のイベントに協力
- 長年のOB顧客に対する感謝祭の開催
- 点検ついでの「ちょっとした見守り」や声かけ
これらは一見、売上には直接関係がないように思えますが、「あの会社、顔が見えるし、なんか温かいよね」と思ってもらえるきっかけになります。
地域密着の企業だからこそ実現できる“顔の見える信頼”は、大手には真似できない圧倒的な差別化ポイントです。
④ 社員一人ひとりの姿勢
どんなに会社の理念が立派でも、現場で働く社員の言動がすべてを物語ります。
- 初対面でのあいさつが丁寧だった
- わかりやすい言葉で説明してくれた
- 少しのことでもメモを取り、真剣に聞いてくれた
- 帰り際に感謝の一言があった
そんな一つひとつの行動が、積み重なって「この会社の人、感じが良かった」「またお願いしたい」という感情を育てていきます。
社員の“人間力”こそ、最大のブランディング資産です。
会社としても、社員教育やマインドの共有を通じて、「人で選ばれる会社」になることが、共感マーケティングの中核を担います。
5. 実践事例:共感マーケティングが成功した企業たち

共感マーケティングは、机上の理論ではなく、実際に多くの企業がその成果を上げてきた「実践的な戦略」です。
ここでは、大手から中小企業まで、共感を軸に成功した事例を紹介します。
■ パタゴニア:環境活動がブランドそのものに
アメリカ発のアウトドアブランド「パタゴニア」は、単なる高品質なアウトドアウェアを作る企業ではありません。
「地球を救うためにビジネスを行う」という強いミッションを掲げ、環境保護を企業活動の中心に据えています。
具体的には:
- 売上の1%を環境保護団体に寄付
- 古着の回収・再販を積極的に実施
- 自社製品の修理を推奨し、「買い替えを減らす」キャンペーンを展開
- 社員が環境団体に一定期間出向できる制度も設置
これらは一見、売上に反する行為のようにも見えますが、逆にこの「企業としての本気度」に多くの消費者が共感し、ブランドのファンとなって世界中に広がっています。
パタゴニアは、「製品を売る前に、思想を売る」ことに成功した代表例です。
■ 無印良品:暮らしの“あり方”を提案するブランド
無印良品は、「ブランドを主張しないブランド」として、機能性とシンプルさを追求してきました。
その背景にあるのが、「人間らしい生活とは何か」を問い続ける企業姿勢です。
たとえば:
- 商品パッケージを極限までシンプルにし、無駄を省くことで環境負荷を減らす
- 家具や日用品の使いやすさを徹底的に考え、余計な装飾を省く
- 世界各地の地域課題に取り組む「Found MUJI」など、文化への敬意を込めたプロジェクトを展開
また、近年では「感じ良い暮らし」をテーマに掲げ、商品よりも生活スタイルの提案に重きを置いています。
無印が伝えているのは、「この商品を買って」ではなく、
「この暮らし方、あなたも心地よく感じませんか?」という共感の投げかけです。
この姿勢が幅広い層から支持され、単なる小売店を超えたライフスタイルブランドとして確立されました。
■ 中小企業の事例:素朴な発信が信頼を生む
大手企業だけでなく、実は共感マーケティングの真価が最も発揮されるのは、地域に根ざした中小企業です。
以下のような例が、実際に共感を集めて成功につながっています:
-
地元のお祭りや学校行事への継続的な協賛・参加
→「この会社、町のために動いてくれている」と親近感が生まれる -
地域限定の商品やパッケージを展開
→地元愛をくすぐり、リピーターや贈答ニーズにつながる -
社員が本音で語るブログやSNS投稿
→「顔が見える」「人柄が伝わる」ことで安心感や共感を獲得し、ファン化を促進
たとえば、地元の塗装会社が「今日の現場」「お客様の笑顔」「塗り替えビフォーアフター」を毎日発信し続けたところ、近隣地域での知名度と信頼が急速に高まり、**“応援される会社”**として受注が大幅に増加したという事例もあります。
大企業のように多額の広告費をかけずとも、「地道で誠実な発信」×「地域とのリアルな関係性」こそが、最強の共感マーケティングになるのです。
6. まとめ:共感は最強の営業力になる

今の時代、消費者のまわりには「モノ」も「情報」もあふれています。
選択肢が多いからこそ、単に「性能がいい」「安い」といったスペック的な優位性だけでは選ばれない時代に入っています。
本当に選ばれる企業・ブランドになるためには、「この商品が欲しい」ではなく、「この人・この会社から買いたい」と思っていただけるような、深い“共感関係”が必要です。
■ 共感は“理屈”よりも“心”を動かす
価格や機能といった比較軸は、誰でもすぐに調べることができ、他社も簡単に真似できます。
しかし、「この会社の想いに共感した」「この人なら信頼できる」といった感情に基づく理由は、唯一無二です。
そしてこの感情こそが、以下のような“行動”を生み出します:
- 価格が少し高くても依頼する
- 競合が提案していても断ってくれる
- 自発的に知人に紹介してくれる
- 自社のファンとしてSNSなどで発信してくれる
このように、共感は「売上アップの手段」ではなく、企業とお客様をつなぐ“絆”そのものになっていきます。
■ 企業の未来は「共感資産」で決まる
これからの時代、「何を持っているか」よりも「何を信じて行動しているか」が問われます。
つまり、企業の持続的成長を支えるのは、利益や設備といった“資産”ではなく、共感される価値観やストーリー=“共感資産”なのです。
サスティナブルな姿勢や地域への関わり、社員の誠実さ、創業の背景…
こうした“想い”や“人間らしさ”が、共感を呼び、顧客を惹きつけ、結果として最強の営業力となります。
■ 最後に:売るのではなく「信頼される存在」になる
共感マーケティングにおいて目指すべきは、目先の売上ではなく、「この会社を応援したい」「ずっと付き合いたい」と思ってもらえる関係性の構築です。
そのためには:
- 自社の理念や背景を、正直に、丁寧に伝えること
- 社員一人ひとりが“企業の顔”であることを意識すること
- お客様だけでなく、地域や社会に対しても誠実であること
これらを積み重ねることが、最終的に企業のブランド力を高め、紹介やリピートというかたちで「成果」として返ってきます。
サスティナブルであること、共感される存在であること——
それこそが、これからの企業が持つべき最大の武器であり、“未来を切り拓くマーケティング”なのです。
コメント