1. はじめに|「感情の動き」を見える化する意味とは?

人が行動を起こすとき、その背後には常に「感情」が動いています。
たとえば、私たちが何か商品を購入する際の思考プロセスを思い出してみてください。
- 「あ、これ良さそう」 → ちょっとした興味や期待
- 「でも、今必要かな?」 → 迷い、不安
- 「口コミもいいし、試してみようかな」 → 安心、納得
- 「よし、買おう!」 → 決断
このように、意思決定の背景には常に感情のうねり=“心の動線”があります。
つまり、論理的な情報だけで人は動いているのではなく、そのときに感じた“気持ち”が行動を決めているのです。
◆ なぜ“感情”は見落とされがちなのか?
一方で、ビジネスの現場では「感情」は軽視されやすい傾向にあります。
なぜなら、感情は「数値化しづらく、再現性が低そうに見える」からです。
その結果、企業は「来店率」「クリック率」「離脱率」などの定量データばかりを指標にして施策を打ちがちです。
しかし、これらの数字の“裏側”には、必ず感情の変化が潜んでいるのです。
- なぜクリックされたのか?
- なぜ購入に至らなかったのか?
- なぜ途中で問い合わせをやめてしまったのか?
これらの問いには、数字では答えられません。答えはすべて「感情の流れ」の中にあるのです。
◆ エモーショナル・マッピング戦略が注目される理由
ここで登場するのが、「エモーショナル・マッピング戦略」です。
これは、顧客や求職者の行動プロセスに沿って、感情の起伏を図解化する手法です。
これにより、次のようなメリットが得られます:
- 💡 感情が沈む“ボトルネック”が明確になる
- 💡 改善の打ち手が「感情ベース」で設計できる
- 💡 “なぜ売れないのか”“なぜ辞退されたのか”に具体的なヒントが見える
つまり、論理だけでは届かなかった部分に“戦略的に介入できる”ようになるのです。
この手法は、マーケティング・営業・接客・採用・教育など、あらゆる“人が関わる現場”で活用できます。
2. エモーショナル・マッピングとは何か?

▸ 概念と背景|“心の動き”に焦点を当てる戦略
エモーショナル・マッピングとは、顧客や求職者の体験プロセスを「感情の視点」から可視化する手法です。
マーケティングや営業活動では、これまで「ユーザーがどのような行動をとったか?」に注目する行動中心のアプローチが主流でした。
しかし、行動の背後には、常に「感情」が存在しています。
たとえば「クリックしなかった」や「途中で離脱した」という行動の原因は、
多くの場合、“不安・迷い・違和感”などの感情による判断です。
▸ シンプルな例:カフェ来店までの感情の流れ
ここで、あるカフェに入るまでのシナリオを簡単にマッピングしてみましょう。
シーン | 想定される感情 |
---|---|
通りかかる | 「ちょっと気になる」期待(+) |
看板が見えにくい | 「ここって営業してる?」不安(-) |
ドアを開けたら満席に見える | 「入っていいのかな」戸惑い(-) |
店員の笑顔で迎えられる | 「ホッとした」安心(+) |
メニューが複雑で選べない | 「どれにしよう…」混乱(-) |
注文がスムーズに通る | 「よかった」安堵(+) |
このように、顧客の頭の中では、常に“感情の山と谷”が連続して起きているのです。
エモーショナル・マッピングでは、こうした感情の変化を線グラフやステップ図にして、
どのタイミングで「気持ちが落ち込んでいるか(=ボトルネック)」を“見える化”します。
▸ カスタマージャーニーとの違い|“感情”に注目したマップ
カスタマージャーニー(CJ:Customer Journey Map)は、一般的に次のような要素を軸に設計されます:
- フェーズ:認知 → 検討 → 比較 → 購入 → 利用
- 接点(タッチポイント):Webサイト、SNS、電話、接客など
- 課題や行動:調べる/迷う/問い合わせる/購入する etc.
これは、“ユーザーが何をしたか”を分析する構造的なフレームワークです。
一方、エモーショナル・マッピングは「感情の推移」に着目します。
カスタマージャーニー | エモーショナル・マッピング |
---|---|
行動中心:「何をしたか?」 | 感情中心:「どんな気持ちだったか?」 |
数値化しやすい(行動・流入・CVなど) | 定性的な要素(共感・安心・不安など) |
タッチポイントの整備が主目的 | 感情の揺れに対する改善が主目的 |
マーケティング施策との親和性が高い | 接客・体験設計・営業トーク改善に有効 |
つまり、カスタマージャーニーでは“行動の地図”を描き、エモーショナル・マッピングでは“心の地図”を描くのです。
▸ なぜ今、感情へのアプローチが重要なのか?
昨今、選ばれる企業・サービスには共通して「感情価値の提供」が求められています。
ただ商品を売るのではなく、「安心できた」「この会社に任せたいと思った」など、感情に響く体験設計が競争力になる時代です。
また、SNSの普及により、顧客が感じた「不安」や「不快感」はすぐに拡散される一方、
「安心できた」「気持ちよかった」という好意的な体験は、ファン化や紹介につながる強力な武器になります。
エモーショナル・マッピングは、まさにその“感情の設計図”を描くための戦略ツールとして、
今あらゆる業界で注目され始めています。
3. “感情動線”を描くステップ

エモーショナル・マッピングは、感情という目に見えないものを「戦略的に見える化」する手法です。
導入の際は、以下の4つのステップで順序立てて行うことで、現場での実用性が一気に高まります。
ステップ①:行動フェーズの洗い出し
まず最初に、顧客(または求職者)がサービスや商品に触れる一連のプロセスを、時系列でフェーズ分解します。
これは、カスタマージャーニーやユーザー体験フローと同じ要領です。
例|カフェの場合
- 認知(SNSで見かける)
- 店舗前を通る
- 入店する
- 席に着く
- 注文する
- 飲食する
- 退店する
例|採用の場合
- 求人を見る
- 応募するか悩む
- 応募する
- 面接を受ける
- 条件や社風を確認する
- 入社を決める/辞退する
ここでは、フェーズを細かく分けすぎないことがポイント。
大まかに「5〜8ステップ」程度で整理するのが実践的です。
ステップ②:各フェーズでの感情を仮説立て
次に、それぞれの行動フェーズで、顧客がどんな感情を抱いているかを仮説として立てます。
このときに活用するのが、代表的な感情ワードです:
プラス感情 | マイナス感情 |
---|---|
期待、安心、納得、好意 | 不安、迷い、違和感、失望、疑念、緊張、混乱 |
※ユーザーの声やインタビュー、レビューも非常に有用です。
例:
- 店舗前の段階:「どんな雰囲気か分からない…ちょっと不安」
- 席に案内された:「静かで落ち着く…ホッとする」
- メニューが多い:「どれを選んだら…悩むなあ」
このように言葉で感情を可視化することで、マップ化に繋がるベースができます。
ステップ③:マッピングと感情ラベリング
ここからがエモーショナル・マッピングの核心です。
各フェーズにおける「感情の高低」をグラフや線で可視化していきます。
代表的な方法:
- 感情推移グラフ(横軸:行動フェーズ、縦軸:感情の強さ)
- ラインチャート形式(線の上下で“気分の山と谷”を表現)
- 付箋マッピング(壁面やホワイトボードでフェーズごとに付箋を貼りながら議論)
例:
コピーする編集する感情の高低:
↑ 安心・好意
| ✳︎———✳︎
| ✳︎—
| ✳︎
|✳︎
↓ 不安・迷い・違和感
来店前→入店→注文→食事→退店
これにより、視覚的に「感情が落ち込むポイント=ボトルネック」が浮き彫りになります。
ステップ④:ボトルネックの特定と改善策設計
感情マップが完成したら、次は「感情の谷」に注目します。
ここが、顧客体験を阻害している見えない“壁”です。
具体的な改善アプローチ:
- 不安ポイント → 情報提供を増やす、ガイドやサポートを強化する
- 迷いポイント → 選択肢を絞る、比較しやすくする
- 失望ポイント → 期待値の調整、事前説明の見直し、対応速度の改善
例:
- 「注文時に迷ってしまう」 → 人気ランキング・おすすめメニューを設置
- 「面接の返事が遅く不安」 → 選考状況の進捗連絡を即日対応に変更
改善策は「感情の谷を平らにする」ことを意識して設計しましょう。
これにより、CV率(コンバージョン)やNPS(顧客満足度)、定着率の向上が期待できます。
社内でのワークショップ形式がおすすめ
このプロセスは、個人で考えるよりも複数人でディスカッションしながら描く方が効果的です。
マーケター、営業、カスタマーサポートなど、さまざまな立場の視点から感情仮説を出すことで、マップの精度が向上します。
4. 活用シーン①|店舗業における「迷い」ポイントの発見

飲食店やアパレル店、小売店舗などの現場では、「購入に至らない理由」が価格や商品そのものではないケースが多くあります。
実はその原因の多くが、顧客の中で生まれる「迷い」や「不安」といった感情に潜んでいるのです。
◆ なぜ“迷い”がCV(購入)を妨げるのか?
たとえば、来店者が店頭で足を止めたとします。
この時点では「興味」や「期待」といったプラスの感情を抱いています。
しかし――
- 入り口がわかりにくい
- 中の雰囲気が見えない
- 入店後の流れが不透明
- 注文や会計の仕方が複雑
- 商品やメニューが多すぎて選べない
こうしたちょっとした不安や迷いが重なると、購買行動は止まってしまうのです。
「やめておこう」となる理由は、“論理的な不満”ではなく、“感情的な抵抗感”なのです。
▸ 例:カフェ店舗の感情動線マップ
以下は、あるカフェの来店体験を感情ベースでマッピングしたものです。
フェーズ | 想定される感情 |
---|---|
通りすがり | 興味・期待(+) |
入り口が見えづらい | 不安(−) |
扉が閉まっていて開けにくい | 迷い(−) |
店員が声をかけてくれる | 安心(+) |
席が空いているか不明 | 焦り(−) |
メニューが多すぎる | 混乱・迷い(−) |
人気メニューが目に入る | 納得(+) |
注文がスムーズにできた | 安堵(+) |
ここで注目すべきは、「入り口〜注文前」までに複数の“感情の谷”が存在することです。
この谷を放置すると、せっかくの興味が「退店」という行動に変わってしまいます。
◆ 改善ポイント:感情の谷を“安心”で埋める
エモーショナル・マップから見えてくる改善点は、単なるUIやデザインの修正ではありません。
「感情の谷に、安心・納得の材料をどう設計するか?」がポイントになります。
たとえば…
-
入り口の不安 → 看板やのれんで営業中と明示
- 「お気軽にどうぞ♪」「ランチ営業中」などの一言が効果的
-
メニューの迷い → 人気No.1・写真付きのおすすめメニュー設置
- 「迷ったらこれ!」というガイドは安心を生む
-
初来店者の不安 → 店員の笑顔と声かけを標準化
- 「こちらどうぞ!」と自然な一声で、顧客の緊張がほどける
このように、「接点」ではなく“感情ポイント”に対して施策を当てることが重要です。
◆ 感情動線を意識すると、何が変わるのか?
従来の「接客改善」「店内導線改善」だけでは、“顧客がなぜ離脱したか”の本質は掴めません。
しかし感情動線を見える化すれば、以下のような成果が期待できます:
- ✅ CV率(入店→購入)が上がる
- ✅ リピーターが増える(心地よい体験の記憶)
- ✅ レビューや紹介で“体験”が語られるようになる
- ✅ 現場スタッフが“声をかけるべきタイミング”を理解できる
つまり、感情設計は単なる店舗改善ではなく、「顧客体験のブランディング」にも繋がるのです。
5. 活用シーン②|採用支援での「失望」の予防法
求職者は、求人に応募してから内定・入社に至るまで、複雑な感情の波を経験します。
表面上は「応募→面接→入社」と順調に進んでいるように見えても、
その裏には不安・期待・迷い・失望・納得といった感情が目まぐるしく変化しているのです。
この“心の動線”を把握しないまま進めると、以下のような問題が起きやすくなります:
- 内定辞退が多発する
- 入社後の早期離職が起きる
- 求人広告や面接の印象と、実態のギャップが発生する
こうしたミスマッチの多くは、「感情の谷=失望や不信」を放置していることが原因です。
▸ 例:採用活動における求職者の感情動線マップ
フェーズ | 想定される感情 |
---|---|
求人情報を発見 | 期待・希望(+) |
応募するか悩む | 不安・疑念(−) |
面接で好印象を得る | 安心・信頼・期待(+) |
条件が合わない/誤解がある | 失望・不満(−) |
選考の連絡が遅い | 不信・不安(−) |
内定通知 | 一時的な安心(+) |
入社直前に不安が再燃 | 迷い・後悔(−) |
このように、たとえ「内定まで到達した」としても、途中で何度も“感情の谷”に落ちているのがわかります。
◆ 感情の谷が放置されるとどうなるか?
よくあるパターン:
- 求人内容が「やりがいあり」と書いてあったが、具体的な業務説明がなく不安になる
- 面接官の対応が好印象だったが、条件提示が曖昧で期待外れに
- 合否連絡が遅れたことで、「大切にされていない」と感じて気持ちが冷める
- 内定通知後に社内見学がなく、「雰囲気がわからないまま入社」が不安に変わる
これらは、合理的な不満ではなく、感情的な“失望”や“不信感”が原因で起きていることが多いのです。
◆ 感情動線をもとにした改善アプローチ
① 「不安→信頼」へ切り替える初期フォロー
- 応募直後に自動返信ではなく人間的な温かみのあるメッセージを送る
- よくある質問(FAQ)や社内の雰囲気を伝える「社員の声」コンテンツを事前共有
② 「期待→失望」にならない情報設計
- 条件・業務内容は抽象的なワードではなく、具体例で伝える
- 面接前に「当社のリアル(大変な点も含め)」を明示し、期待値のすり合わせ
③ 「待たせない」で不信を回避
- 選考スピードを明示:「◯営業日以内に連絡します」と伝える
- 面接から内定までの進行フローを事前共有することで、“見通し感”による安心を提供
④ 入社直前の“迷い”を打ち消す設計
- 内定後にオンライン社内見学・チームとのカジュアル面談を実施
- 入社前に「歓迎メッセージ」や「入社準備ガイド」を送るなど心理的距離を縮める
◆ 感情動線を重視することで得られる成果
- ✅ 内定辞退率の低下:最後の「不信・不安」を打ち消すことで、歩留まり改善
- ✅ 定着率の向上:入社前後の“心理ギャップ”を防ぎ、安心感のまま業務へ入れる
- ✅ ミスマッチ削減:期待と実態の乖離を防ぎ、「長く働けそう」という印象に繋がる
◆ 採用は“スペック”ではなく“感情の設計”で決まる時代へ
どんなに条件が良くても、「なんか不安だった」「雰囲気が合わない気がした」――
このような漠然とした感情が、離脱や辞退の本当の理由です。
だからこそ、数字では測れない“感情の谷”にこそ戦略的に介入する価値があるのです。
エモーショナル・マッピングは、採用活動をただの「選抜作業」から、「共感と信頼を築く体験設計」へと変えてくれます。
6. 他業種への応用可能性

エモーショナル・マッピングは、店舗や採用だけでなく、あらゆる業種・業界に応用可能な「汎用性の高い戦略ツール」です。
顧客・ユーザー・従業員など、“人”が関わるすべての体験に感情は存在し、それが行動に影響を与えます。
ここでは代表的な業界別に、活用シーンと改善ポイントを具体的に紹介します。
▶ BtoB営業:商談の「比較・検討」フェーズを見える化
▸ 感情動線の例
フェーズ | 感情 |
---|---|
資料請求 | 興味・期待(+) |
ヒアリング | 緊張・やや不安(−) |
競合比較 | 迷い・混乱(−) |
成果事例の提示 | 安心・納得(+) |
価格交渉・条件調整 | 疑念・不満(−) |
▸ 改善アプローチ
- 見積もり提出後の「待ち時間」をフォローするメールを自動化し、不安の放置を防ぐ
- 価格交渉時には「安心できる理由(保証・サポート)」を感情に訴える言葉で補完
- 成約後は担当者からの感謝動画やメッセージで「納得→感動」に昇華
▶ 不動産業:内見〜契約までの“納得と不安”の動きを読み取る
▸ 感情動線の例
フェーズ | 感情 |
---|---|
物件検索 | ワクワク・期待(+) |
現地内見 | 興奮・迷い(±) |
周辺環境の確認 | 納得・安心(+) |
契約書の説明 | 混乱・緊張・警戒(−) |
入居前手続きの不備 | 不満・不信(−) |
▸ 改善アプローチ
- 内見後に「不安を払拭するQ&Aシート」や「購入者の声」を即送付し、検討時の迷いを解消
- 契約説明では、法律用語ではなく感情に寄り添った翻訳(例:「心配な点はここで解消」)を添える
- 入居前には「ようこそメッセージ」や地域のおすすめスポットMAPを提供して、ポジティブな感情を強化
▶ 教育業界:体験授業後の「ワクワク→不安→期待」をデザイン
▸ 感情動線の例(塾・予備校)
フェーズ | 感情 |
---|---|
体験授業申込み | 期待(+) |
実際の授業参加 | 緊張・刺激(±) |
親との話し合い | 不安・迷い(−) |
カリキュラム提案 | 安心・納得(+) |
入塾決断までの空白期間 | 再び不安・比較(−) |
▸ 改善アプローチ
- 授業後24時間以内に動画付きメッセージ「がんばったね!」を送信し、記憶がポジティブなうちにフォロー
- 保護者向けには、「よくある質問」と「将来像が描ける事例」をセットにして、迷いを和らげる
- 空白期間中は、担当講師からの個別応援メッセージで接点を切らさず、不安感の再燃を防ぐ
▶ 医療業界:初診前の不安、診療後の安心感を設計
▸ 感情動線の例(クリニック)
フェーズ | 感情 |
---|---|
予約前の情報収集 | 不安・疑念(−) |
問診・受付 | 緊張・安心(±) |
医師との診察 | 安心・納得(+) |
会計〜薬の説明 | 混乱・質問しづらい(−) |
帰宅後のケア/連絡なし | 不安・放置感(−) |
▸ 改善アプローチ
- 初診前に「診療の流れ」を動画やイラストで事前案内し、緊張を和らげる
- 医師との診察後には「聞きづらかったことはありませんか?」というサポートスタッフの一言で印象UP
- 診療後にはLINEでのフォローアップ相談や、服薬リマインドを導入し、安心感を持続
▶ 社内活用:マネジメントや研修設計にも応用できる
エモーショナル・マッピングは、「顧客」に限らず「従業員体験(Employee Experience)」にも応用可能です。
特にオンボーディング研修や評価制度、異動・退職時の心理設計に活用すると離職防止やモチベーション管理に直結します。
▸ 活用例
社員フェーズ | 感情 |
---|---|
入社前オリエンテーション | 期待・緊張(±) |
初日研修 | 不安・安心(±) |
実務スタート | 疲労・混乱(−) |
成果・承認の経験 | 自信・満足(+) |
異動・人事評価の通達 | 不安・怒り・納得(±) |
▸ 改善アプローチ
- 上司からの感謝やフィードバックが“心の谷”に刺さるタイミングを設計し、信頼を深める
- 評価面談時には、感情の動きを予測したトークスクリプトを準備して、離職リスクを抑える
🌍 応用可能性は無限大
エモーショナル・マッピングは、感情という見えにくい資産を“戦略に組み込む”ことで、成果の質が一段上がるアプローチです。
どんな業界でも、下記のようなテーマで活用ができます:
- ❓「なぜ途中で離脱されたのか?」
- ❓「なぜ成約に至らなかったのか?」
- ❓「なぜ辞めてしまったのか?」
これらの問いに対し、“感情の谷”を特定し、適切に介入する設計図として大きな力を発揮します。
7. 導入時のポイントと注意点

エモーショナル・マッピング戦略は強力な手法ですが、取り扱う対象が「数値」ではなく「感情」であるため、導入時にはいくつかの注意点があります。
“見えないものを見える化する”からこそ、丁寧な運用と多角的な視点が不可欠です。
① 感情は“揺れ動く”ものとして捉える
感情は天気のように、状況やタイミングによって変わるものです。
そのため、一人の体験や印象をそのまま戦略の基準にしてしまうと、偏った結果に陥りやすいのが難点です。
▸ 対応策:
- 3〜10名以上の顧客・求職者にヒアリングを実施し、「共通する感情の流れ」を抽出
- 可能なら、実際の行動観察(例:店舗での滞在時間・動き)とセットで分析
✏️ 感情は“正解”ではなく“傾向”を捉えるもの。点ではなく波として見るのがコツです。
② 数値ではなく、“ストーリー”で感情を理解する
感情はGoogle AnalyticsやBIツールで測定できるものではありません。
むしろ、体験中の心の動きや印象を「ストーリー」として捉えることが重要です。
▸ 具体例:
- 「最初はよかったけど、急に冷めた」
- 「決める寸前で、何となく不安になった」
- 「他社より高いけど、対応が丁寧だったから安心できた」
こうした“語り口”の中に、感情のヒントが隠れています。
▸ 実践方法:
- 顧客インタビューでは、「何がよかったか?」よりも、「どこで迷いましたか?」「そのとき、どう感じましたか?」という感情に関する質問を意識的に入れる
- 感情の推移を「Before/After」「第一印象/最終判断」など、フェーズごとに物語で追う
③ お客様の声をヒントにする(インサイト発掘)
施策設計の出発点は、“現場の声”です。
アンケートやクチコミ、SNS、レビューなどには、顧客の“感情的な引っかかり”がたくさん含まれています。
▸ 質問例(アンケートやヒアリングで有効なフレーズ):
- 「どのタイミングで迷いましたか?」
- 「決め手になった感情はなんでしたか?」
- 「もっとこうだったら、気持ちが楽だったと思うことは?」
- 「このサービスに“安心感”を感じた瞬間は?」
▸ 収集チャネル:
- 接客終了時の簡易アンケート(タブレット・QRコードなど)
- 面接後の求職者フィードバック
- GoogleレビューやSNS投稿の感情語をキーワード分析
④ チームで共通認識を持つことがカギ
感情という抽象的なテーマは、部門ごとに受け止め方が違うことが多いです。
- 営業:成果主義で「不安に共感するよりクロージング重視」
- マーケティング:定量データ分析に偏りがち
- サービス・CS:感情へのアンテナは高いが、改善案に繋げにくい
このズレをなくすには、感情マップを“見える化”した状態で、チーム全体で議論する場を設けるのがおすすめです。
✏️ 感情マップは、“気づき”を共有しやすくする「共通言語ツール」でもあります。
⑤ 感情設計は一度で完成しない
感情マップは“設計図”ではなく、“温度計”です。
一度作ったら終わりではなく、季節や市場、顧客層によって変化する前提で更新していくことが大切です。
▸ 継続運用のコツ:
- 四半期に一度、マップの見直しを実施
- 新規キャンペーンや施策の前後で、感情推移の違いを比較分析
- 新入社員や現場スタッフの感想も取り入れて、“現場視点の気づき”を反映
🌱 感情と向き合うことで、本当の改善が始まる
エモーショナル・マッピングを成功させるには、「データで割り切れないこと」に向き合う姿勢が不可欠です。
“見えないもの”に気づこうとするそのプロセスこそが、顧客に選ばれる体験設計の第一歩になります。
次章では、こうした感情設計がどのように売上や成果に繋がっていくのか、実例とともにまとめていきます。
8. まとめ|感情をデザインすることで生まれる新たな成果

私たちが普段のビジネスで追いかける「CV率」「リピート率」「定着率」「NPS(顧客満足度)」などの数値指標。
これらの変動の“本当の理由”は、実は顧客や求職者の「感情の動き」によって左右されていることがほとんどです。
- なぜ、申し込みフォームまで来て離脱したのか?
- なぜ、面接で好感触だったのに辞退されたのか?
- なぜ、契約後のフォローで不満が生まれたのか?
これらの問いに対し、エモーショナル・マッピングは、「感情の谷」と「感情の山」から具体的な答えを導き出すことができます。
それはまさに、論理だけでは届かなかった“人の決断の核心”に手を伸ばすアプローチです。
◆ 感情を“設計する”という視点が、成果を変える
従来の改善アプローチは、機能・価格・接点・導線など「論理的な構造」に偏っていました。
もちろんそれも重要ですが、人の行動は論理ではなく“気持ち”で動くことを私たちは肌で感じています。
- 迷いを“納得”に変える言葉を準備する
- 不安を“安心”に変える導線をつくる
- 面倒を“嬉しさ”に変える演出を加える
こうした「感情ベースの設計」を行うことで、
これまで届かなかった層に届けられるようになり、CV率が上がり、クレームが減り、顧客のファン化が進んでいきます。
◆ 成果につながる3つの代表効果
1. CV率の改善
ユーザーが「安心して次のアクションを取れるようになる」ことで、購入・申し込み・来店率が大幅に上がります。
2. 顧客・求職者の定着
「思っていたのと違った」というギャップによる離脱が減少し、継続率や採用の歩留まりが改善されます。
3. ブランド力の向上
「ここは対応が丁寧」「気持ちが分かってくれている」といった体験は、感情に残り、ブランド好感度として蓄積されます。
◆ さあ、あなたの現場でも「感情動線」を見つけてみませんか?
エモーショナル・マッピングは、専門的な知識やシステムがなくても、誰でも始められる“感情からの設計戦略”です。
- 「最近、お客様の反応が薄い…」
- 「求職者の辞退理由がよくわからない」
- 「営業トークが刺さらなくなってきた」
そんな時こそ、「感情動線」を図解してみてください。
きっと、今まで見えていなかった“本当の課題”が浮かび上がってくるはずです。
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