1. はじめに:なぜ“顧客の顧客”に注目するべきか

多くの企業が行うマーケティングや商品開発の出発点は、「自社の顧客のニーズを満たすこと」です。これは一見すると当然のように思えるかもしれません。しかし、顧客が求めているものの“本当の理由”に目を向けている企業は意外と少ないのが実情です。
たとえば、ある企業が製品のスペック改善や新機能を求められたとします。通常であれば、そのまま開発に取りかかり、要望を反映する形で商品をリリースするでしょう。しかし、その要望は本当に顧客自身の判断からくるものなのでしょうか?実際には、その顧客がさらに提供している「その先の顧客」からの圧力や期待が背景にあるケースが非常に多いのです。
つまり、「自社の顧客の課題やニーズ」は、すでに“顧客の顧客(エンドユーザー)”の課題の二次的な反映である場合が多く、真の原因をたどるにはその“もう一段深いところ”に目を向ける必要があります。
顧客の顧客に目を向ける3つの理由
1. 真のニーズに辿り着ける
一次顧客の発言や数値だけでは掴めない、エンドユーザーの行動・感情・不満といった“定性的な要素”に触れることで、見逃されていた改善機会やイノベーションの種が見えてきます。
2. 提供価値の再定義ができる
エンドユーザーの課題を解決することにフォーカスすることで、自社の製品やサービスの提供価値そのものをアップデートすることが可能になります。これにより、単なる“ベンダー”から“戦略パートナー”へと位置づけを変えることができます。
3. 競合との差別化につながる
多くの企業が一次顧客だけを見て戦略を立てている中で、エンドユーザー起点の設計ができれば、ニーズの先回りができ、差別化された提案が可能になります。結果的に信頼や受注確度が大きく高まることになります。
「売れる」ではなく「選ばれる」へ
今日の市場は、モノが溢れ、情報も多すぎる時代です。顧客が比較検討を繰り返す中で、選ばれる企業・選ばれる商品になるためには、単なる機能・価格ではなく、“どれだけ顧客の文脈を理解しているか”が問われます。
その文脈理解において重要なのが、「顧客の顧客を理解しているかどうか」です。エンドユーザーを理解し、それに基づいた提案を行うことができれば、単なるサプライヤーではなく、「この企業となら一緒に価値をつくれる」と感じてもらえる存在になります。

2. 「顧客の顧客分析戦略」とは何か?
「顧客の顧客分析戦略」は、単なるマーケティング手法の一種ではなく、企業がバリューチェーン全体を俯瞰し、“本質的な価値提供の在り方”を再構築するための視座です。
多くの企業が、目の前の一次顧客(取引先、代理店、卸業者、小売企業など)のニーズに応えることを最優先にしています。しかし、その背後には「さらに先の顧客(=最終利用者)」が存在しており、一次顧客の意思決定にも大きな影響を与えています。
この戦略では、その「顧客の顧客」のインサイトを起点にして、商品設計、流通戦略、販売支援、サービス提供の全体構造を見直すことが目的です。
顧客中心主義の“その先”へ
マーケティングにおいて「顧客中心主義(Customer-Centric)」はもはや常識となっていますが、この戦略は“Customer of Customer-Centric”という一歩先の視点です。
- 顧客の意思決定は、その先の顧客の要望に引っ張られている
- その先の顧客の不満が、目の前の顧客からの要望に姿を変えて届いている
こうした因果関係に気づくことが、戦略設計における精度と説得力を飛躍的に高める鍵になります。
BtoBとBtoCにおける活用構造の違い
BtoBの場合:
- 一次顧客(例:部品メーカー、代理店)ではなく、その製品を使用する最終企業や消費者の使用環境や課題を分析
- 顧客の“顧客満足”まで含めた提案をすることで、差別化された提案力を確保
BtoCの場合:
- 直接の購買者(例:スーパー、小売店)ではなく、最終利用者(家庭の主婦、子ども、高齢者など)のニーズや行動パターンを起点に商品・販促戦略を見直す
たとえば、消費者が使いやすいようにパッケージを改良することで、結果的に小売側の販売効率が上がり、商談がスムーズに進むといった流れが生まれます。
「川下からの逆流思考」が生む効果
この戦略の本質は、通常の“上流から下流へ”という設計思考を、あえて逆流させて考えることにあります。
-
売りたいものを開発 → 売り場に届ける → 顧客に訴求する
という順序から、 -
顧客の使用体験や文脈 → 売り場の導線や訴求 → 商品やサービスの再設計
という逆順へと、思考の流れを逆転させるのです。
このように川下から逆算してバリューチェーン全体を見直すことで、現場での“当たり前”に埋もれていた機会損失を発見できたり、製品・サービスに新たな意味づけを付加できたりします。
競争の軸を「顧客理解の深さ」に移す
現代の競争環境では、機能や価格といった表面的なスペック競争は限界があります。むしろ、
- 顧客が「本当に求めているもの」
- 顧客も気づいていない「不満」や「不便さ」
- 顧客の価値観の変化や未来志向
といった“解像度の高い理解”そのものが、コンサルティングや提案の差別化軸になります。
「顧客の顧客を見る」という視点は、その深さを獲得するための強力な切り口となります。
3. 戦略の効果と導入メリット

「顧客の顧客」を視野に入れた戦略を導入することで、企業は単なる課題解決にとどまらず、“価値連鎖全体の質を高める”ようなアプローチが可能になります。
この戦略は、今ある製品やサービスをどう売るかという視点ではなく、“何をどう作り、どう伝えるべきか”を再定義することに直結するため、マーケティング・営業・開発・経営といった全社的な取り組みにまで発展する可能性を秘めています。
以下、その具体的な効果とメリットを解説します。
1. 「本当に求められている価値」に近づく
企業が通常接する顧客から得られる情報は、しばしば“翻訳済み”のニーズです。顧客が自らの立場を踏まえて整理・要約した意見であることが多く、その背景にある「本質的な不満」や「本当の目的」が抜け落ちていることも少なくありません。
顧客の顧客、つまりエンドユーザーの行動・感情・期待を直接観察・分析することで、よりピュアなニーズ、そして隠れた課題を捉えることができます。
結果として、製品やサービスの改善だけでなく、ブランドのあり方やコミュニケーション戦略にも影響を与えるような、上位概念の再定義が可能になります。
2. 顧客視点から一歩進んだ“未来予測型”の提案ができる
エンドユーザーの動向を観察することは、単なるニーズ把握ではなく、市場変化や価値観の潮流を読むことにもつながります。
- どんな層が新たな購買層になり得るのか
- どんな行動変化が今後のトレンドになるのか
- どんな価値基準が選ばれる時代をつくるのか
こうした洞察を踏まえることで、企業は「顧客に言われてから対応する」姿勢ではなく、“変化を先回りする提案”ができるパートナーへと進化します。これはコンサルティングにおいて、顧客の信頼を得る大きな武器となります。
3. エンドユーザー視点から逆算することで、LTVの向上に直結する
LTV(Life Time Value=顧客生涯価値)は、多くの企業にとってKPIの中心に位置づけられていますが、往々にして改善策はキャンペーンや囲い込み、値引きなどに依存しがちです。
しかし、エンドユーザーにとって使い続けたくなる商品・サービスであるかどうかが、そもそものLTVを決定づける要因です。
- 使いやすいパッケージ
- ストレスを感じない導線
- 毎日使いたくなる情緒的価値
こうした「ユーザー視点の再設計」は、リピート率の向上やアップセルの成功率を高め、結果的にLTVを大きく押し上げることにつながります。
4. 社内の複数部門に横断的なインパクトを与える
「顧客の顧客分析」は、マーケティング部門だけの話ではありません。
- 開発部門は、ユーザーインサイトに基づいた仕様や設計変更が可能になり、失敗リスクの少ない商品開発を実現
- 営業部門は、一次顧客の“先の課題”まで提案に織り込むことで、説得力ある提案が可能に
- カスタマーサポート部門は、エンドユーザーの不満の傾向を事前に把握し、対応マニュアルをアップデート
- 経営層は、長期的な戦略判断において、顧客ニーズではなく“社会全体の変化”をベースにした判断が可能に
つまり、これは単なる“顧客分析の深化”ではなく、企業全体の思考や行動をアップデートするきっかけとなる戦略です。
5. 「マーケットイン」から「エンドユーザーイン」へ
従来のマーケットイン(市場ニーズに応える発想)は、ある意味で“過去のデータや顧客の声”に依存した発想です。これに対して、「エンドユーザーイン」という考え方は、“今”や“これから”のリアルな行動・文脈から逆算して設計を行う思考法です。
これは、技術や流行の変化が速い現代において、企業の持続的な競争力を支える新たなスタンダードになるといっても過言ではありません。
4. 活用事例①:食品メーカー×主婦の調理行動分析

ある食品メーカーでは、長年にわたり「スーパーの売場担当者」や「バイヤー」の意見をもとに商品開発を行っていました。実際に仕入れの意思決定を行うのは彼らであるため、売上に直結する“顧客”として当然のアプローチでした。
しかし、近年ある主力商品の売上が横ばい~やや減少傾向にありました。品質や味には自信があり、原価を抑える工夫もしていたにもかかわらず、数字が伸びなかったのです。
そこでマーケティングチームが着目したのが、「その先にいる人」、すなわち実際にその商品を使う主婦(家庭の調理担当者)たちの行動でした。
視点を変える:スーパーではなく、家庭の台所へ
対象としたのは、30~50代の共働き主婦層。平日は忙しく、朝晩の調理は「短時間・最小手間」が必須条件という人たちです。
調査はアンケートやインタビューだけでなく、以下のような行動観察(エスノグラフィー)も活用しました。
- 冷蔵庫内の整理状況の観察
- 実際の調理中の動作や手順の録画・分析
- 商品の取り出し〜開封〜加熱〜後片付けまでの流れを可視化
明らかになった“顧客の顧客”の本音と行動
これらの調査を通して、メーカーがこれまで見逃していた“現場目線”の課題がいくつも浮かび上がってきました。
1. 冷蔵庫に入りにくいサイズ・形状
- 商品パッケージが縦長でかさばるため、冷蔵庫内で邪魔になりやすい
- 他の商品と並べたときに「置きづらい」と感じて購入を避ける人が多かった
2. 開封時の不満
- 袋の切り口が甘く、開けた瞬間に中身が飛び出すリスクが高い
- 特に朝の忙しい時間帯にこれが起こると、イライラの原因になっていた
3. 手順が複雑・わかりにくい
- 商品には“簡単調理”と書かれていたが、レシピに3手順以上ある時点で面倒に感じられていた
- また、文字ばかりの説明は読み飛ばされ、結果的にリピートされない要因に
改善施策:エンドユーザー視点に立った再設計
これらのインサイトをもとに、メーカーは次のような施策を実施しました。
パッケージのリデザイン
- 横に倒しても収納しやすい薄型形状に変更
- パッケージサイズを微調整し、他の食品と並べても邪魔にならない構造へ
開封性の改善
- 開封部分にミシン目+ジッパーを採用し、片手でも安全・清潔に開けられるように
- 内容物がこぼれにくい内袋設計も追加
情報設計と販促の見直し
- パッケージにQRコードを追加し、30秒の調理動画に誘導
- 忙しい主婦が一目で理解できる「1分レシピ」など、視覚的なコミュニケーションへ変更
- スーパー店頭では、「時短」「片手でラクラク」など具体的ベネフィットを前面に出すPOPを展開
結果:数字と信頼がついてくる
これらの改善施策を行った結果、以下のような効果が現れました。
- 該当商品の販売数が前年比で約30%増加
- スーパーの店舗担当者からも「販促がしやすい」「説明が簡単になった」と高評価
- 購入者アンケートでも「また買いたい」と答えた人の割合が以前の約2倍に増加
何より、「お客様の声に本気で向き合っている会社」というブランドイメージが社外・社内に浸透し、営業や企画チームのモチベーション向上にもつながりました。
売場ではなく“使用の現場”を見よ
この事例は、「顧客の顧客」を見ることで、これまで見逃されていた不満・不便・希望が発掘されることを証明しています。
スーパーや取引先の声に応えるのではなく、「実際に使う人の生活」を深く理解することで、製品や販促の本質が変わる。まさに“マーケットイン”を超えた「エンドユーザーイン」の発想といえます。
5. 活用事例②:製造業×エンドユーザーの不満を起点に工程改善

あるBtoBの製造業企業では、長年にわたり「納品先(一次顧客)」の要望に応じて製造ラインや納品形態を最適化してきました。クライアント企業からの評価は高く、品質や納期にも問題はないという認識が社内に根づいていました。
しかし、あるタイミングで「再注文のペースが鈍化」し、「類似製品への乗り換え」が散見されるようになったことで、問題意識が高まりました。
営業部門がヒアリングを重ねても、納品先からは「特に不満はない」「競合も同程度の性能」といった回答ばかり。そこで、視点を一次顧客から“その先の利用者”であるエンドユーザー(実際に現場で製品を使っている人)に切り替えることにしました。
情報収集方法:エンドユーザーの“生の声”を集める
この企業が実施したのは、次のような多面的な調査アプローチです。
-
SNS・レビューサイト分析
製品名や型番でキーワード検索し、ユーザーの投稿内容や評価を収集 -
カスタマーサポートの履歴再分析
問い合わせ内容・クレーム内容をカテゴリごとに整理し、頻出する不満や改善要望を可視化 -
展示会・実演会での現場観察とインタビュー
実際に製品を操作する現場作業員や技術者の声を直接聞き、反応を観察する -
納品先の了承を得て、現場見学やユーザーインタビューを実施
実地での使用シーンを確認し、潜在的な使いにくさを現場目線で把握
浮かび上がったリアルな課題
こうした“顧客の顧客”視点での調査により、次のような構造的な課題が明らかになりました。
1. 製品の重量が作業現場に負担をかけていた
- スペック上は「許容範囲内」だったが、現場では高所作業や片手操作が多く、実際にはかなりの負担になっていた
- 特に女性スタッフや高齢作業者にとっては扱いづらく、安全性にも不安があった
2. 梱包順が現場の作業効率を損なっていた
- 組み立て工程で必要な部品が、梱包の奥側にあり、先に出すのに時間がかかる
- 現場では時間あたりの作業効率が重要視されており、「使いやすさ」ではなく「使いづらさ」がネガティブに評価されていた
3. 取扱説明書が直感的でなかった
- 技術者向けの仕様書は詳細だが、現場作業員にとっては理解しにくい構成になっていた
- 図解が少なく、専門用語も多いため、新人スタッフには特にハードルが高かった
改善施策:設計・梱包・マニュアルすべてを“エンドユーザー目線”で再構築
企業は、エンドユーザーから得たフィードバックをもとに、以下のような改善策を段階的に実施しました。
製品自体の見直し
- 一部パーツの軽量素材への切り替えにより、総重量を10%軽減
- 持ち手やグリップの形状も人間工学に基づいてリデザイン
梱包方法の改善
- 組み立て順に沿ったパーツ配置へ変更
- 箱の内部に手順番号を印字し、視覚的に迷わない構造へ
説明書の刷新
- ピクトグラムや手順動画のQRコードを追加
- 作業員向けと技術担当向けでマニュアルを分割し、それぞれの用途に合わせた内容構成へ変更
成果:顧客満足とリピート率の同時向上
改善策の実施から半年後、次のような成果が確認されました。
- エンドユーザーからの満足度が高まり、現場から「これなら使いたい」という声が届くように
- それを受けた一次顧客からの再発注率が上昇し、営業担当の商談成立率も約20%向上
- 製品の評判が社内で共有され、「御社のは現場ウケがいい」と新規の指名発注も増加
- 結果として、前年同月比で営業利益が15%増加
教訓:現場の不満は、静かに“売上”を削っている
この事例は、エンドユーザーの些細な不満やストレスが、最終的には売上や継続取引に影響するという現実を浮き彫りにしています。
一次顧客が問題視していないからといって、それが“満足している証拠”ではない。むしろ、エンドユーザーのリアルな声に耳を傾けられるかどうかが、企業の競争優位を左右する時代に入っています。
製造業においても、売ったあと、使われる現場のことをどれだけ理解しているか。そこに、真の価値提供のヒントが隠されています。
6. 分析を成功させるためのポイントと注意点

「顧客の顧客」を分析するというアプローチは、従来の顧客分析よりも深く、複雑な構造を持っています。成功させるには、データの取り扱い、関係者の巻き込み、コンサルタント自身の姿勢など、さまざまな側面において丁寧な準備と対応が求められます。
以下に、この戦略を導入・運用する際に注意すべき重要ポイントを解説します。
1. 定量だけでなく「定性データ」を重視すること
エンドユーザーの本音や文脈は、数字の裏側に隠れていることが多く、アンケートや売上データだけでは見えてこない“行動・感情・空気感”を把握することが鍵となります。
活用すべき手段:
- SNS分析・レビュー抽出:自然な言葉で語られる不満や評価は、現実に近いインサイトの宝庫
- ユーザビリティテスト・観察調査:実際に製品・サービスを使う様子を記録し、何に迷っているのか、何が負担なのかを発見
- エスノグラフィー(行動観察):ユーザーの日常生活や業務の中に入り込み、言葉では語られない課題を見つけ出す
- カスタマーサポートの履歴分析:頻出する問い合わせやクレームの中に、設計ミスや説明不足のヒントが隠れている
重要なのは、エンドユーザーの“言葉にならない不便”をどれだけ掘り起こせるかです。
2. クライアント企業の理解と協力を得る工夫
「顧客の顧客を分析したい」という提案に対して、クライアントが疑問や不安を持つのは珍しくありません。
よくある懸念:
- 「自社の顧客対応が足りていないと指摘されるのではないか」
- 「外部の人間に顧客データを見せることへの抵抗」
- 「エンドユーザーのことは我々が一番理解している」というプライド
対応のポイント:
- この分析はクライアント企業を否定するのではなく、補完し、価値を引き出すものであることを、丁寧に伝える
- 「最終的には御社がより選ばれるための仕組みづくりである」という未来志向の提案に言い換える
- 可能であれば、小さな検証(PoC)から始めて成果を可視化し、段階的に信頼を構築していく
3. コンサルタント自身の「先入観」を排除する
この種の戦略では、「きっとこうだろう」「たぶんこれが原因だ」という仮説を持ちすぎてしまうことが落とし穴になります。エンドユーザーの声や行動を、“自分の見たい方向”に解釈してしまうバイアスに要注意です。
実践するべきアプローチ:
- 質問設計の段階で、「Yes/No」で答えられる質問ではなく、自由回答や状況説明を引き出す問いを活用する
- 仮説を持ちながらも、事実とのズレを歓迎する態度を持ち、違和感が出てきたらそれを深掘りする
- 「これは◯◯業界では当たり前」というような業界常識の再検証を常に意識する
つまり、分析とは“証明”ではなく“発見”であるという基本に立ち返り、柔軟な思考で取り組むことが求められます。
4. 情報の解釈は“現場の言葉”に翻訳する
エンドユーザーから得たインサイトを、クライアントや社内の他部門に伝える際は、専門用語や抽象的なマーケティング言語ではなく、“現場で使われている言葉”に変換することが重要です。
例:
-
✕「UIの認知負荷が高い」
→ ○「一目見て“次に何をすればいいか”がわかりにくい」 -
✕「感情的フリクションがある導線」
→ ○「焦っているときに、逆にストレスを感じてしまう動き」
この“翻訳力”があることで、関係者の納得感が生まれ、施策の実行スピードが高まります。
この戦略は「聴く力」と「見抜く力」の総合力
顧客の顧客を見るという行為は、単なる分析作業ではなく、対人理解力、ファシリテーション力、ストーリーテリング力など、総合的なスキルが求められる戦略的プロセスです。
- 現場に敬意を持って「聴く力」
- 観察を通じて真因を見抜く「洞察力」
- 得た情報を納得感ある言葉で届ける「伝える力」
この3つを組み合わせてこそ、顧客の顧客分析戦略は、単なる分析を超えた「ビジネス変革の起点」になり得ます。
7. まとめ:戦略視点を“川下”に向けることが競争優位につながる

これまで多くの企業が、「顧客の声を聴く」ことを中心に、商品やサービスの改善、マーケティング戦略の立案、営業手法の見直しを進めてきました。顧客満足やNPS(Net Promoter Score)などの指標が重要視されるようになったことで、顧客との関係性を強化する文化は浸透しつつあります。
しかし現代のビジネス環境では、それだけでは不十分です。
なぜなら、顧客の意見や要望が、すでに“誰かの期待や不満”を代弁した“二次的な声”であるケースが多くなっているからです。つまり、「顧客の背後にいる顧客=顧客の顧客」こそが、本質的なニーズや変化の源泉になっているのです。
川下から見なければ見えない“構造的な課題”がある
“川上”の立場(=製造者・サービス提供者)からは、商品の仕様やプロセスに目が向きがちです。一方、“川下”であるエンドユーザーが感じている不便や期待は、往々にして直接は伝わってきません。
この川上と川下の認識ギャップこそが、価値のロスや機会損失を生む最大の要因です。
そしてこのギャップに最初に気づき、構造を逆流させて再設計することができる企業やコンサルタントこそが、これからの時代に選ばれる存在になっていきます。
顧客の顧客を見ることは、未来を先取りする行為である
「顧客の顧客を見る」という視点は、単なる分析手法ではありません。
それは、
- 市場の変化を先読みする力
- 潜在ニーズを明確化する力
- 商品・サービスの再定義を促す力
を持った、“未来設計のための戦略視点”です。
多くの競合が「今の顧客」に対応し続けている中で、自社は「これから選ばれる理由」を先回りしてつくっていく。これが“1.5歩先”の視点であり、最も大きな差別化ポイントとなります。
戦略の主導権は、顧客の内側ではなく“顧客の外側”にある
従来の戦略は、顧客企業の課題やKPIをベースに組み立てられることが多く、「クライアントの枠内で考える」ことに留まりがちです。しかし、顧客の顧客を分析するという手法は、クライアントの視点を外からリフレームする(再定義する)ことを可能にします。
これは単なる業務支援ではなく、クライアントにとっての「パートナー」としての信頼を勝ち取る最短ルートです。
コンサルティングの本質は「問い直し」である
「顧客は何を求めているのか?」という問いは当然ですが、その一歩先にはこうした問いがあります。
- 「顧客は、誰に価値を届けようとしているのか?」
- 「その先の人は、何に困っていて、何に期待しているのか?」
- 「その声は、今までどこにも届けられていなかったのではないか?」
このような問いを発するコンサルタントは、企業の外部者でありながら、“内側にいる誰よりも深く構造を理解している存在”となります。
締めくくりに:戦略とは、相手のその先に目を向ける知性である
これからの時代、コンサルティングの価値は「知識量」や「資料の完成度」ではなく、どれだけ相手を“深く理解しているか”、そしてその理解をどこまで拡張できるかにかかっています。
「顧客の顧客を見る」ことは、誰よりも遠くを見て、誰よりも近くで寄り添うための、最も実践的かつ人間的な戦略です。
今、顧客から「想定外の提案だった」と言われたいあなたにこそ、この戦略をぜひ取り入れてほしいと願っています。

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